東京地方裁判所 昭和47年(ワ)9489号 判決 1973年3月28日
原告 三恵機材株式会社
被告 小根産業こと戸谷陸三
主文
一 被告は原告に対し、金九四万円およびこれに対する昭和四七年一一月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨。
二 請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 訴外八千代興産株式会社(以下訴外会社という)は仮設機材の販売等を業とする株式会社である。
(二) 訴外会社は被告に対し、被告との金具類の販売取引により、昭和四七年六月二〇日現在、金九四万円の売掛代金債権を有していた。
(三)1 訴外会社は昭和四七年七月五日、原告に対し右売掛代金債権を譲渡した。
2 訴外会社は被告に対し、昭和四七年七月一五日に到達した書面で、右債権譲渡の通知をした。
(四) よつて原告は被告に対し、右譲受債権金九四万円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四七年一一月一五日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(一) 請求原因(一)、(二)の事実は認める。
(二) 同(三)、1の事実は否認する。同(三)、2の事実は認める。
三 抗弁
(一) 仮に、原告が本件売掛代金債権を譲り受けたとしても右債権譲渡は原告と訴外会社とが通謀の上、訴外会社の全債権者を害する意思でなした詐害行為であり、そのため、訴外会社の債権者である訴外第一特殊製線株式会社が原告と訴外会社に対し、詐害行為取消の訴を提起し、右訴訟は現に当庁に係属中である。
(二) 訴外第一特殊製線株式会社を債権者、原告を債務者、被告を第三債務者として原告主張の本件債権につき、処分禁止の仮処分命令があり(当庁昭和四七年(ヨ)第六〇五六号)、昭和四七年一〇月四日ころ、右仮処分の決定正本が被告に送達された。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因(一)、(二)の事実については当事者間に争いがない。
二 訴外八千代興産株式会社が被告に対し昭和四七年七月一五日到達の内容証明郵便により原告主張の債権譲渡を通知したことは被告の認めるところであり、右事実によれば請求原因(三)1の事実を推認することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
三 そこで抗弁(一)につき考えるに、本件債権譲渡行為につき詐害行為取消請求訴訟が提起されているとしても、譲渡行為の取消の効果は右事件における債権者勝訴の判決が確定したとき(もしくは、仮執行宣言が許されると解するなら仮執行宣言付判決言渡のとき)に始めて生ずるのであるから、少なくとも、右訴訟の係属中であること自体は、被告において原告の請求を拒む理由とはなりえないと解すべきである。被告の抗弁(一)の主張はそれ自体失当である。
四 また抗弁(二)について考えるに、給付訴訟の訴訟物たる債権につき、その債権者を債務者とし、その債務者を第三債務者とする処分禁止の仮処分がなされている場合でも、裁判所は右仮処分を顧慮することなく即時給付の判決をなしうるものと解すべきである。なぜならば、処分禁止の仮処分は債務者に対しては目的債権の処分ないしは取立を禁止し、その実効を確保するため第三債務者に対してはその弁済を禁止する旨を命ずる方法でなされるものであつて、本件のように詐害行為取消訴訟を本案とする右仮処分は仮処分債権者の将来の狭義の執行保全というより、広義の執行力-形成力-の実効性を確保せんとするものであるが、これによる債務者の行為の制限もこの保全の目的を完うするに必要な範囲に限定されるべく、この範囲を越えてあらゆる債務者の行為を制限するものではない。このような観点からみると、右仮処分命令の実効性を確保するには、仮処分債務者による債権の現実の取立ないし第三債務者による現実の弁済を禁止する限度で効力を認めれば十分であり(従つて現実の満足をもたらす、仮処分債務者のための強制執行の障害事由と解すれば十分である。)、右の限度をこえて仮処分債務者が第三債務者に対して求める給付請求そのものまで排斥する必要性はないと解すべきだからである(仮処分債権者としては、仮処分債務者が第三債務者に対して給付判決を得ることによつて被保全権利を害されるわけではない)。
従つて被告の抗弁(二)も主張自体失当である。
五 よつて原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 沖野威 上谷清 野崎惟子)